フリーランスとして仕事をするにあたり、「契約書って本当に必要なのかな?」と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。
結論から言いますと、フリーランスが自分自身で身を守るためには、契約や契約書に関する知識が必要です。
契約内容が曖昧なままでは、フリーランス側の条件が不利になったり、トラブルが起きた際もスムーズに問題解決できなかったりします。
この記事では「フリーランスに契約書が必要な理由」や「おすすめの契約書テンプレート」を紹介します。
最後まで読んでいただければ契約書の書き方やチェックのコツがわかり、「契約書ってなんだか難しい」という不安が払しょくできるはずです。
フリーランスに契約書が必要な2つの理由
フリーランスに契約書が必要な理由は、主に2つあります。
- トラブル防止のため
- クライアントとの信頼関係構築のため
順番に解説していくので参考にしてください。
トラブル防止のため
フリーランスに契約書が必要な理由は、トラブル防止のためです。
クライアントとフリーランスの間でなにかしらのトラブルが生じた場合、契約書の内容に応じた対応がなされます。
実は口頭のみでも契約は成立します(諾成契約)。
しかし口頭での契約ですと双方の記憶があいまいになるため、トラブル時には「言った、言わない」の水掛け論になってしまいかねません。
トラブルの例としては、以下のようなものがあります。
契約書に契約条件や権利関係の扱いが明記されていれば、上記のようなトラブルが起きてもスムーズに対応可能です。
またクライアントが悪質ですと、契約書がフリーランス側にとって著しく不利な内容になることがあるので注意しましょう。
残念ながら「フリーランスの立場の弱さ」につけこむクライアントもいるからです。
フリーランスが安心して仕事するためには、「きちんとした契約書を作成できる能力」のほか、「不利な契約書ではないかチェックできる能力」が必要だと認識しておきましょう。
クライアントとの信頼関係構築のため
契約書を交わすことは、クライアントとの信頼関係構築にも役立ちます。
契約書があることで、クライアントが安心して仕事を発注できるからです。
悪意のあるなしに関わらず、口約束での契約ですと「成果物の体裁や内容が、クライアント側の認識とズレる」「作業範囲がフリーランス側の認識を超える」といったことが起こりえます。
上記のような場合、クライアント・フリーランスのどちらかが「契約を守れない、続けられない」と考える可能性もあります。
細かい条件をきちんと決め、契約書にまとめておくことで、お互いが安心してスムーズに仕事できるようになり、長期的な信頼関係も築けるでしょう。
「クライアントからの信頼を獲得し、継続的に仕事していきたい」と考えているなら、契約書を交わすことが重要と考えておいてください。
フリーランスが利用する主な契約書の種類
フリーランスとクライアントが結ぶ「業務委託契約」には、主に以下の2種類があります。
- 請負契約
- 準委任契約
種類が違うと契約書の作り方(収入印紙の有無)も変わるので、違いを押さえておきましょう。
なお業務委託契約には「委任契約」もありますが、業務内容が法律行為に限定されているため、弁護士などの士業以外で使うことはありません。
請負契約が多いのは「プログラマー」「ライター」「デザイナー」など
請負契約が多いのは、「プログラマー」「ライター」「デザイナー」などです。
「成果物に対して報酬が支払われる契約」だからですね。
例えば「Webサイト・アプリ制作」「Web記事の執筆」「イラスト・デザインの制作」「内職」などは請負契約となります。
請負契約で成果物を納品できなかった場合には、作業に時間をかけていたとしても、報酬は発生しません。
請負契約は「成果物を納品する契約」「成果のかたちやクオリティが明確な場合の契約」と考えてください。
なお請負契約の契約書には、契約金額に応じて収入印紙の貼付が必要となります。
詳細な金額については、「No.7102 請負に関する契約書(国税庁)」のページを参考にしてみてください。
準委任契約が多いのは「コンサルタント」「講師」「事務スタッフ」など
準委任契約を結ぶことが多いフリーランスは、「コンサルタント」「講演会の講師」「事務スタッフ」などです。
「クライアントが法律行為以外のサービスをフリーランスに委託する契約」だからです。
例えば「各種コンサル」「講師」「レクチャー」「システム保守」などは準委任契約となります。
準委任契約は「業務の遂行」が目的であり、請負契約と違って成果物の納品が求められません。
例えばコンサルで成果(売上増など)を出せなかったとしても、任された業務を実行していれば報酬は発生します。
準委任契約は「任された仕事を実行する契約」「明確な成果物がない契約」「成果を確約することがふさわしくない仕事の契約」と考えてください。
フリーランスが契約書を作る際の注意点
フリーランスの業務委託契約では、クライアント側が契約書を作成するのが一般的ですが、フリーランス側が契約書をつくるケースもあります。
またクライアントが作成した契約書のチェックする際、契約書作成の注意点やポイントを知っておくと安心です。
フリーランスが契約書を作る際の主な注意点を紹介します。
- 契約書の形式を決める
- 必要事項をもれなく盛り込む
- 起こりうるトラブルを想定して作成する
順番に解説していくので参考にしてみてください。
契約書の形式を決める
まずは契約書の形式を決めます。
契約書の形式には「都度契約(単発契約)」と「基本契約+個別契約」があり、発注の頻度によって適している契約方式が違うからです。
都度契約(単発契約) | 案件ごとに契約書を取り交わす。案件ごとに条件を変更できて安心だが、発注の頻度が高いと契約書発行の手間が大きくなる。 |
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基本契約+個別契約 | 取引における基本的なルールを定めた「基本契約」をつくり、あとは受発注のやりとり(個別契約)だけで済ませる。同じ業務を何度も受発注する場合に適している。 |
例えば「週2本の頻度で、継続的に同じクライアントからWebライティングの案件を受注する」といった契約では、「基本契約+個別契約」が適しています。
上記の場合、基本契約で「個別契約の連絡方法」を決めておき、個別契約では記事ごとの「納期」「報酬」などを決めます。
受注する業務の内容・頻度によって、どちらの契約方式にするか決めてください。
必要事項が盛り込まれているかをチェックする
契約書を作成するときには、必要事項がもれなく盛り込まれているかをチェックしましょう。
必要事項の漏れがあるとトラブルにつながりかねないからです。
契約書に記載すべき項目としては、以下のようなものがあります。
タイトル | 「業務委託契約書」が一般的。 |
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前文 | 誰と誰が何についての契約を結ぶのか簡潔に記載する。 |
業務内容・範囲 | 業務内容を明確に記載。範囲を制限しておかないと、受けたつもりのない業務を任されたり、無限に修正を求められたりする恐れがある。「○○は委託範囲に含まない」などと書いてもよい。 |
業務期間 | 責任をもって受託できる契約期間を設定する。契約期間の延長について「どちらかから申し出がなければ、自動で契約延長される」などと書く場合もある。 |
報酬金額 | 報酬額・消費税額を明記。源泉徴収が行われるかどうかも明記しておく。 |
経費負担 | 「交通費」「通信費」「業務に必要な備品の購入費用」などの経費をどちらが負担するか決めておく。 |
支払い方法・期限 | いつまでに、どんな支払い方法で報酬が支払われるか明記。支払い方法は銀行振り込みが一般的。 |
秘密保持 | どんな情報が「秘密」にあたるのかを決める。秘密保持については別途「秘密保持契約書(NDA)」を取り交わすケースも多い。 |
再委託の可否 | 条件付きで再委託が認められるようにしておくと、自分が業務できないときでも契約不履行にならずに済む。 |
著作権 | 成果物の著作権がどちらにあるのかを決める。「納品後は著作権をクライアント側に譲渡する」と定めるケースが多い。 |
契約解除 | 契約解除の方法や条件を定める。「どちらかにルール違反があった場合には、通知なしで契約解除できる」と定める場合もある。 |
不可抗力発生時の責任 | 「被災」「病気・ケガ」などが原因で業務ができなかった場合、責任が発生するかを明記。 |
損害賠償 | トラブル時の賠償範囲を決めておく。 |
報告 | 準委任型の場合には、業務についての報告タイミングや報告方法・内容について決めておく。 |
管轄裁判所 | トラブルが起きたとき、どの裁判所に訴えるのかを決めておく。近い裁判所のほうが便利。 |
なお「契約書にない事項については、都度話し合って決める」といった内容を最後に加えることも多いです。
それぞれの項目について、正確にわかりやすく記載してください。
起こりうるトラブルを想定して作成する
契約書を作成するときには、起こりそうなトラブルを想定しておきましょう。
せっかく契約書を作成しても、内容が不十分でトラブルに対応できなければ意味がありません。
全体的に「報酬未払いや支払いの遅れ」のトラブルが多いので、「検収(検品)期限」「支払い期限」についてはしっかり考えて記載しておくべきです。
またイラスト・デザイン系の案件で「納品したイラスト・デザインが想定外のシーンで使われないようにしたい」という場合には、利用できるシーンを契約書で定めておきましょう。
ライターなら「記事構成の作成有無」「記事内に挿入する画像作成の有無」などで、「思っていたより業務範囲が広かった」と思うこともありますので、業務範囲を明確にしておくことをおすすめします。
起こりうるトラブルは職種・案件によって違うため、同業者にトラブル事例を聞くなどして、契約書の作成を進めましょう。
契約書の作成から契約締結までの流れ
契約書作成を含めた契約締結の流れは以下の通りです。
- 契約内容についてクライアントと交渉する
- 契約書を作成する
- 契約を締結する
順に紹介していくのでチェックしてみてください。
契約内容についてクライアントと交渉する
まずは契約内容についてクライアントと交渉します。
契約内容が決まらないと、契約書が作成できないからです。
具体的には、契約書に盛り込むべき以下のような内容を決めていきます。
- 業務内容
- 業務範囲
- 契約形態
- 契約期間
- 仕事の流れ
- 納期
- 報酬・支払い方法
- 著作権の取り扱い
- 秘密保持について
- 経費(交通費)の支給有無など
クライアント・フリーランスのどちらかが「契約書のたたき台」を作って、たたき台をもとに交渉を進めるケースも多いです。
なお交渉時はクライアントの立場を上に見てしまいがちな人もいるかもしれませんが、すべての要望に合わせる必要はありません。
フリーランスから要望・提案を伝えることも問題ありません。
フリーランスを「パートナー」として大事にしてくれるクライアントであれば、要望に耳を傾けてくれるはずです。
疑問やわだかまりを残さず互いが気持ちよく仕事できるよう、納得できるまで話し合うことをおすすめします。
無理難題を押し付けてくれるクライアントは、仕事開始以降も無茶な要求をしてくる可能性もあります。
交渉段階で「強引だな」「納得できない」といったように、相手に対して違和感を感じたら、契約するかどうか考え直してみるのもよいでしょう。
契約書を作成する
内容に合意できたら、正式な契約書を作成します。
一般的にはクライアント側が契約書を作成しますが、フリーランス側が契約書を提示することもあります。
フリーランス側が作成するときのために、あらかじめ「自分用の契約テンプレート」を用意しておくと便利です。
クライアント側から契約書を提示された場合は、必要な項目がもれなく正確に記載されているかチェックしましょう。
契約を締結する
双方が契約書をチェックして納得したら、契約書に署名・押印して契約締結となります。
署名・押印をもって「双方が契約に合意した」とみなされます。
押印は必須ではありませんが、慣習上押印を求められるケースが多いですね。
ただ「紙の契約書にお互い署名・押印して郵送でやりとりする」という工程には時間と手間がかかるので、最近ではクラウドサインのような「電子署名・電子契約」も普及しています。
電子契約では画面の案内に沿って進んでいけば簡単に手続きできるので、「難しそう」と心配する必要はありません。
フリーランスにおすすめの契約書テンプレート
自分でイチから契約書を作成するのは大変なので、ネットで「契約書のテンプレート」を探す方も多いのではないでしょうか。
おすすめの契約書テンプレートサイトは以下の4つです。
Bizocean https://www.bizocean.jp/doc/category/20/ |
トライベック株式会社が運営するサイト。契約書の種類が豊富。 |
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テンプレートBANK https://www.templatebank.com/category/contract-templates |
ティービー株式会社が運営するサイト。契約書の種類が豊富。 |
咲くや企業法務.NET https://kigyobengo.com/media/useful-type/contract |
弁護士法人が運営するサイト。業務委託契約書や秘密保持契約書のテンプレートがダウンロード可能。 |
ウェブさえ https://websae.net/contract_document/ |
株式会社ウェブさえが運営するブログ。執筆者はWebサイト企画・制作フリーランスとして長年活躍しているため、Web系フリーランスにおすすめ。 |
いずれも信頼できる法人・専門家が運営しています。
テンプレートには必要な項目が盛り込まれており、体裁も整っているので、使いやすいでしょう。
利用規約を確認したうえで、自分用にアレンジして使ってください。
【まとめ】契約書の作成やチェックに不安な場合、士業の方へ相談する
フリーランスが安心して仕事するためには、きちんとした契約書が欠かせません。
契約書を作成する場合やクライアントが作成した契約書をチェックする場合は、「必要事項が盛り込まれているか」「支払期日が遅すぎるなど、フリーランスに不利な内容になっていないか」に注意しましょう。
契約書のテンプレートはネットでも探せるので、弁護士法人など信頼できる運営者が提供しているものを選んで活用してみてください。
もしあなたが契約書に何かしらの不安を感じている場合、法律や契約書作成に詳しい士業の方へ相談するのもおすすめです。
たとえば、「弁護士」「司法書士」「社労士」「行政書士」などが挙げられます。
「契約書作成が難しく感じる」「高額・長期の契約なので、ミスや見落としが無いか心配」といった場合、相談することで後々のトラブルを防ぐことへとつながることでしょう。
あなたが契約を結ぼうとしている内容に応じて、必要な専門家を探す際には、クラウドソーシングで募集してみるのもおすすめです。
「企業とのライティング契約書をチェックしていただきたいです」と募集することで、対応可能な専門家を探せるからです。
登録や募集自体は無料で行えるので、興味がある方はぜひ一度試してみてください。